BUILDING A HOUSE

執筆者紹介

アルピコ蓼科高原別荘地の管理事務所横にモデルハウス棟が建設されている。厳冬期には-20℃を超える蓼科で、快適に住めるように設計された高気密・高断熱住宅だ。建築企画は当ホームページ内の『標高1700メートルの家づくり』や『二拠点生活について考える』の執筆者で、アルピコホールディングス㈱の外部アドバイザーを務める原信城さん(以下、原さん)が担当している。主に避暑地としてのイメージが強い蓼科で、「冬こそ楽しんでほしい」との願いを込めた経緯を聞いた。
ーー蓼科の魅力について教えてください。

原さん:蓼科は夏が涼しく、多くの方々が訪れます。しかし、私自身2006年から八ヶ岳西麓にセカンドハウスを保有して今年で17年目になりますが、最もおすすめなのは冬の真っ白な景色です。澄んだ青空の下、雪に覆われた一面銀世界の蓼科は本当に美しい場所です。ぜひ、オーナーの皆様には冬の蓼科を見て、遊んで、楽しんでいただきたいと思っています。

ーーしかし、家の中に薪ストーブがあったとしても、極寒の蓼科で過ごすのは簡単ではありません。日本の住宅は一般的に断熱性能が高くなく、特に避暑地の別荘建築では冬を快適に過ごすための設計がなされていないことが大半です。

原さん:おっしゃる通りです。私が初めて購入した中古セカンドハウスは、庭先の水面から反射する太陽のゆらめきをいつまでも見ていたいと思えるような、カーテンを閉める必要のない、池のほとりに佇む大変居心地の良い建物でした。

しかし問題だったのが、冬の寒さです。断熱材が十分に入っていない上に、窓はシングルガラスでした。冬は子供とスキーを楽しむことが八ヶ岳に通う大きな目的でしたが、金曜日の夜中に到着してから、まずは暖房を入れ、車の中から子供をベッドに運び、通水作業を終えてやっと一息つくまで毎回1時間から2時間程度の格闘でした。それでも家の中はとても寒く窓は結露だらけ、暖房費もとても高くつきました。

最初のセカンドハウスは7年ほどほぼ毎週末利用していたのですが、子どもが中学校に入り一緒に来る機会が減ると、「子供を遊ばせる」という動機が無くなり、次第に冬のセカンドハウスを持て余すようになりました。

一方で、蓼科・八ヶ岳西麓エリアには大変魅力を感じていましたので、一年中快適に暮らすことのできる家を建てたいなと、次第に考えるようになりました。私自身、工務店のコンサルタントを当時していた関係で、断熱・気密に関する基礎知識はあったのですが、このころから寒冷地における家づくりを本格的に研究し始めました。

―新しい家でしっかりとした断熱を備えた家を建てようと考えたのですね。

原さん:そうですね。別荘地には「涼しさ」と「雪」を求めていたので、標高の高いエリアに土地を探し求め、同時に工務店探しにも着手しました。

しかし、高性能住宅の研究を進めていけばいくほど、断熱・気密住宅に関する十分なノウハウを持つ工務店が地元の諏訪エリアにほとんど見当たらないことに気がつきました。北海道では20年も前から当たり前のように建てられている寒冷地住宅が、同じような気象条件の蓼科エリアの別荘地では作り手探しにすら難航するという現実に直面し、「そうであれば自分で建ててしまおう」と考え、実験的に建設業を始めることにしました。

―いきなり建設業を始められるものなのでしょうか。

原さん:幸いなことに建設会社の役員を務めていた経験もあり、また仕事を通じて縁のあった工務店経営者や建材会社、知人等の協力を得ることができました。こうした知人の方々からは八ヶ岳エリアでの高性能住宅実験棟の意味合いも含めたセカンドハウス建築の仕事もいただくことができ、自邸を含め合計4棟を建築することで、設計・施工面での実践的なノウハウを得ることができました。

――どのような性能を持った住宅なのでしょうか。

各住戸の性能はQ1住宅(※)を目指して設計しました。自邸を例にするとQ値で1.1。南の方角に大きく窓をとり、軒を出して袖壁をつけたことで夏は日射が入り込むことがありません。一方で冬は家の奥まで日が入り、日射熱を活用することで暖房費が節約できます。灯油を熱源とするパネルヒーターを10月の半ばから5月まで全館暖房(22℃設定)で入れっぱなしにしていますが、平均すると冬場の暖房費(灯油代)は月に1万円程度で済んでおり、これは年間暖房負荷計算に基づく必要暖房エネルギー量とほぼ一致しています。

(※新住協が考案した、省エネ住宅の指標。省エネ基準の住宅が全室暖房する際に消費する暖房費を、半分に削減するために必要な住宅性能を地域ごとに定めている)

これらは家の断熱がしっかりと保たれているから実現できることです。

壁は木質性の断熱材210mm、屋根も同じく275mmの厚みで断熱施工がなされています。これは当時の省エネ基準における北海道の最高等級をはるかに上回るレベルです。
 

ーー現在建てられているモデルハウスも同様の断熱性能で設計されているのでしょうか。

原さん:断熱性能を全般的にさらに強化しています。HEAT20という住宅の断熱に関する設計基準がありますが、この中で最高基準のG3に近い数値を目指しています。窓には世界最高水準の木製トリプルサッシ「佐藤の窓」を新たに実験採用しています。このレベルであればおそらく30年後でも断熱性能のトップランナーでいられるでしょう。

私自身、住宅建築において最も大切なことの一つは、「長年に亘って資産価値が維持される家づくり」であると考えています。実際に建て主が住まうのはせいぜい30年くらいだとしても、家そのものは最低でも3世代90年程度は壊されずに使い続けられる品質を保つことが、経済性の観点だけでなく環境面からも今後一層重要になるのではないでしょうか?

そのためには物理的耐久性は当然のこととして、快適さや省エネルギーを担保する住宅性能が必須であることに加え、普遍的なデザインや暮らしの魅力という要素も必要だと思います。現在建設中のモデルハウスではそのあたりも実際に目で見て確かめていただきたいですね。

――モデルハウスには薪ストーブが設置されていないようですね。

原さん:私も最初の頃は薪ストーブに強い思い入れを持ち、蓼科・八ヶ岳の別荘やセカンドハウスに薪ストーブは必須アイテムであるとも考えていました。以前の中古セカンドハウスにあった薪ストーブはビルトインタイプ(壁埋込み式)のもので室内が全然暖まらなかったので、次に作る家では薪ストーブ1台で暖も取れ、料理もできるようにしたいと考えいろいろなメーカーの薪ストーブを研究しました。

しかしながら断熱性能を高めた住宅においては、薪ストーブの熱量は明らかにオーバーヒートであり、実際に薪ストーブを導入した家でも次第に使われなくなっていく現実を目の当たりにしました。
焚いていない薪ストーブと煙突はただの冷却塔でもあり、正直高性能住宅との相性はあまりよくありません。

そうは言っても薪ストーブを眺めて過ごす時間はとても心が落ち着くもので、直火には何にも代えがたい魅力があることもまた揺るぎのない事実です。
そのため、モデルハウスでは「アウトドアリビングのある暮らし」を提案する予定です。母屋に隣接した半屋外空間のアウトドアリビングで直火を楽しめるコンセプトとなっています。

家の中はいつでも避難できるシェルターとして常に快適な室内環境を維持しつつ、気候の許す限りできるだけ外で過ごすことで、山の風や音を感じながら、直火から得られる暖や料理を楽しむという、都会では味わえない贅沢な暮らし方を提案できればと考えています。