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2023.05.03

#標高1700メートルで犬と遊ぶ - 穴澤賢さん連載エッセイ「犬のために山に家を」

穴澤賢の連載エッセイ「犬のために山に家を」(第3話)

※編集担当注
本コラムは3月掲載予定にて執筆されたものですが、ホームページ不具合改修のため大幅に公開時期が遅れてしまいました。
執筆者及び読者の方々には大変申し訳ございませんでした。

 2017年6月に手に入れた八ヶ岳の中古物件だが、7月から8月にかけてはとにかく忙しかった。毎週末のように訪れては、室内を片付けたり、傷んだ箇所にオイルステインを塗ったり、大福のために『プライベートドッグラン』を作ったりと、ゆっくりくつろぐ暇などなかった。そしてどうにか9月頃にはなんとか形にはなった。

連載エッセイ第二回 『プライベートドッグランを』

 標高1400メートルくらいになると、9月でもうちょっと肌寒い。信じられないかもしれないが、9月頃になると、近くの家の煙突からちらほら煙が立ち上っている。薪ストーブに火を入れている。それくらいの気温なのだ。せっかく頑張ってなんとか快適に過ごせるようにしたのに、冬の間来ないのはもったいない。そうなると問題は暖房器具だった。

 そこで地元の業者さんに相談してみた。下見に来てくれた担当者に、体育館にあるような大きなストーブを置けばいいのではないかと聞いたが、それでは無理だという。なぜなら、普通の石油ストーブは換気しないといけないので、ちょくちょく窓を開ける。するとその度に冷気が入り込むので、結局エンドレスになってしまう。では石油ファンヒーターはどうかと聞くと、普通のものでは太刀打ち出来ないという。なにせ−10℃、ひどいときは−15℃くらいになるからだ。

 ではやっぱり薪ストーブを入れるしかないのか。と思ったら、それでも駄目だという。担当者によれば、この建物は古いので気密性に欠ける。だから薪ストーブを入れても、それほど温まらない。100万円くらいかかる割には効率が悪い。であれば、寒冷地使用のFF式ストーブを入れたらどうかと提案された。

 それなら換気は必要ないし、外に100Lの灯油タンクがあり、そこから自動で給油する。また設定温度になれば自動で止まり、室温が下がるとまた点火する。うちの広さだと、30万円程度で設置できるという。寒いところで暮らしている人には常識かもしれないが、ずっと都会で暮らしていたので、そんなものがあることすら知らなかった。というわけで、寒冷地仕様のFF式ストーブを設置することにした。

 脱線するが、夏から何度も訪れるうちに、テラスで焼鳥をするようになった。ベランダでバーベキューなんて都会では住宅事情的に出来ない。けれど山の家だと敷地は300坪だから少々煙が出たって問題ない。夏の涼しい夜に、テラスで炭火で色々焼きながら飲むビールは格別だった。

 だから最初は焼肉などをしていたのだが、この歳になると、牛肉だと量が食べられない。そこで試しに焼鳥を焼いてみたところ、小さいし胃がもたれないから、色々な種類が楽しめる。

 さらに、味付けなしで焼けば、大吉と福助にもあげられる。そこで「これはいい!」となり、最初はバーベキュー用の七輪で無理やり焼いていたが、そのうち焼鳥台を買い、タレも自分で作るようになってどんどん焼鳥の道を極めていく。これは山の家を手に入れていなければ絶対にやらなかったことのひとつだ。楽しみがひとつ増えた(ちなみに秋から冬にかけてはテラスは寒すぎるのでバーベキューなんて出来ない)。

 話を戻そう。こうしてFF式ストーブを入れたが、それだけで部屋の中がポカポカになったかというと、実はそうでもなかった。気密性の高い建物ならいいのかもしれないが、築40年の木造だからどこからともなく隙間風が入り込んでくる。そのため凍えはしないが、結構寒い。さらに10月から11月にかけて気温がどんどん下がっていく。

 なので、夜寝るときは電気毛布をかけてしのいでいた。どれくらい寒いか分かりやすい例をあげると、真冬のある朝、起きると、窓際の廊下に置いてあったペットボトルがカチンコチンに凍っていた。廊下は部屋と一応襖で仕切られてはいたが、外ではなく室内で、だ。標高1400メートルの八ヶ岳はそれくらい寒い。

 そんな調子で冬も通っていた。なぜなら大吉と福助が喜ぶからだ。いくら気温が低いといっても、日中日が昇ればそれなりに暖かい。それに山の寒さは、なぜかそれほど苦にならない。都会だと「寒っ!」とちょっと不快になったりするが、山だと空気がキンとしていて、少し気持ちいいくらいなのだ。この感覚は、冬の八ヶ岳に行ってみれば分かると思う。

 それと、これは物件を探しているときにある人が教えてくれたのだが、八ヶ岳にセカンドハウスなり移住なりを考えているのなら、まず冬を体験してみるといいという。出来れば一番寒い2月あたり。なぜかというと、一年のうちで一番厳しいこの時期を知り、それが好きなら、あとは一年中最高だというのだ。

 実際、その通りだと思う。春から夏、秋にかけては最高だが、冬は冬で、またいい。何年も通っているが、素直にそう思う。犬も喜ぶ。犬のためにセカンドハウスを考えているのであれば、ぜひ冬に行ってみてください。

 もうひとつ。冬に八ヶ岳に行く場合、4WDのスタッドレスタイヤが必須であること。雪はそれほど多くないが、たまに積もるし、積もらなくても朝と夜は路面が凍結しているところがある。FFやFRのノーマルタイヤでは危険なので、ご注意を。自家用車が4WDでない場合は、レンタカーでもあるのでそちらを選んでください。

 わが家もそれまで乗っていたのは軽自動車だったが、冬の八ヶ岳に行くために10年落ちの4WD(クロスロード)を探して買った。

 こうして年中通うようになり、もうやることはないと思ったが、実はまだまだあった。(つづく)

プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる) 
 
1971年大阪生まれ。ライターで「またね、富士丸。(小学館文庫)」、「また、犬と暮らして」、「犬の笑顔がみたいから(共に世界文化社)」など犬関連の書籍を多数出版。音楽の連載やコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック「Another Side Of Music(ワーナーミュージック・ジャパン)」を出版。

2015年には自らが欲しいと思ったペットグッズを作るブランド『DeLoreans(https://deloreans-shop.com)』を立ち上げる。

BLOG「Another Days」 https://anazawamasaru.com/
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【連載】
 いぬのきもちWEBマガジン『犬のはなし』 https://dog.benesse.ne.jp/tags/?id=619
 sippo『悩んで学んだ犬のこと』 https://sippo.asahi.com/feature/?key=11030585