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2023.08.31

#標高1700メートルで犬と遊ぶ - 穴澤賢さん連載エッセイ「犬のために山に家を」

穴澤賢の連載エッセイ「犬のために山に家を」(第4話)

 

 『前回』は、八ヶ岳の冬の厳しさについて書いたが、それ以外の季節について触れておきたい。まず春だが、平地と違ってなかなか暖かくならない。5月頃でもまだストーブが必要なほど肌寒い。それが6月後半くらいになると、新緑がちらほら出始め、景色が一斉に緑になる。そして夏を迎えるが、ここが犬飼にとって重要なポイントだが、それほど暑くならない。

 このところ、年々気温があがっており、今年の猛烈な暑さは実感していると思う。私が普段暮らしている鎌倉市腰越でも、朝6時ですでに暑いため、毎朝5時に起きて散歩に行っている。大福には「なんでこんなに早く起こすんだよ」と迷惑そうな顔をされながら。眠いのは私も同じだが、絶対に寝坊するわけにはいかない。

 散歩が終わったら、エアコンのきいた室内に閉じ込めるしかない。わが家では16時すぎに夕方の散歩に行くが、今年はその時間になっても気温が下がらない。大福は体内時計が結構正確なので、「そろそろじゃない?」と目で催促してきたり、わざとらしく伸びをしてアピールしてくるが、「いや、まだ暑いから行けないんだよ」となだめすかさないといけない。

 それでも腰越は海が近いから、17時頃になると海風が吹いて気温がくっと下がる。ちらちら外に出て、そのタイミングを確かめてから散歩に行く。しかし恐らく都内では19時、20時になってもまだ暑いのではないかと思う。あの、犬からのそろそろ散歩行こうよ圧は、自分がサボっているわけではないのにと、納得いかないものがある。でも犬は分かってくれない。

 たぶんこの季節、多くの犬飼いが同じ苦労をしているのではないだろうか。そんな人は一度八ヶ岳に遊びに行ってみるといいと思う。それも標高は1200m以上、出来れば1400m以上のところに。そうすると、夏の快適さが体感出来るはずだ。

 山に行くと、朝夕の気温は16〜18℃で、日中も25℃くらいまでしか上がらない。たとえそれ以上になったとしても、湿度が低いので蒸し暑さは感じない。ということは、無理に早起きしなくていいし、日中だって犬と外を出歩けるのだ。信じられないかもしれないが、私が山の家に行く度に経験していることだから、嘘ではない。

 朝夕は人間も半袖では寒いくらいだから、犬にとってはまさにパラダイスである。特に黒い毛の犬にとって夏の都会は地獄でしかなく、日中はずっと家に閉じ込めるしかないから、たまにはそういう環境で遊ばせてあげて欲しいと思う。

 その他、補足情報としては、それなりに標高の高い八ヶ岳には蚊がいない。これは人間にとっても重要である。あのプ〜ンがないのだ。都会に比べると虫は多いが、それほどでもなく、刺したり毒があるものはそんなにいない。ただし、春先にスズメバチに巣を作られないようにはした方がいい(以前、作られて駆除してもらったことがある)。

 そして9月になると気温がどんどん下がっていくが、紅葉していく木々を眺める秋もまたいいのである。11月になるともう冬だが、それはそれでまたいいものだ。都会の冬は「寒いなぁもう」と不快になるものだが、なぜか山の冬は空気がキンとしていて心地いい。つまり、春夏秋冬どれもいいのだ。

 さて、犬と八ヶ岳に遊びに行き、犬も喜ぶし快適だし、第二の拠点を持ちたいと思ったとする。ここからは、そんなあなたのために、旅行ではなく、そこで暮らしてみてから分かる苦労など、私の経験談を書いてみたい。

 まず日々の買い物などや暮らしの不便さはないのか、というと、特にない。私の山の家からスーパーやコンビニは、最短でも車で20分くらいかかるが、すぐに慣れる。その他のインフラは問題ないし、ゴミ捨ても別荘地ならゴミ収集所がある。ネット環境も引けるし、amazonで注文すると、翌日には届く。ただし、車は必要で、冬は路面が凍結するから(朝と夜)4WDのスタッドレスタイヤは必須だ。

 そんな山の暮らしだが、私の場合、山小屋を手に入れたのは大吉と福助のためだったから、まず彼らのためにドッグランを作ったことは『以前書いた』通り。問題はそこからで、作って終わりではなく、刈っても刈っても雑草が生えてくることだ。特にクマザサはしぶとく、草刈りした2週間後にはもうニョキニョキ生えてくる。

 それはドッグランに限った話ではなく、敷地内には雑草が生えてくるものだと思った方がいい。だから初夏から秋にかけて、何度か草刈りする必要がある。別荘地の管理事務所や業者に頼む方法もあるが数万円かかるので、それならと私は草刈り機を買って自分でやることにした。草刈り機だって1万5千円くらいからあるので。

 次に、テラスなど直射日光にあたる木材には、2〜3年に一度はオイルステインを塗り直す必要がある。ある程度時間が経つと効果がなくなってくるので、木材の傷みを防ぐために定期的にやった方がいい(と近所の人に教わった)。

 他にも暮らしてみると色々出てくると思うが、それほど大変なわけではない。草刈りなど、都会の暮らしでは絶対やらないようなことをする必要に迫られたりするが、これもすぐに慣れると思う。私もそうだったから。また、近所の人に聞けば教えてくれる。

 ここからは、みんな経験するわけではないが、わが家が受けた被害の話をしておきたい。そんなこともあるんだと参考にして貰えればと思う。

 八ヶ岳は、標高が高いので水害の可能性は低い。地震も、地盤が固いので強いと言われている。唯一、注意が必要なのは台風だろうか。

 あれは山の家を手に入れた翌年の2018年9月だった。長野を台風が直撃した。そのとき私は山にいなかったが、後日管理事務所から電話があり、敷地内の木が折れて屋根に当たっているという。翌週行ってみると、家のすぐ近くにあった木が途中で折れて、枝が屋根に刺さっていた。

 そんなものは自分ではどうしようもないので、業者に頼んで撤去してもらい、屋根を補修した。これでひと安心かと思った矢先、10月にまた台風が直撃し、今度は家の裏の気が倒れた。このときもいなかったが、後日見てみると、あと数十センチずれていたら家を直撃していたと思われるところに木が横たわっていてゾッとした。

 そこで、管理事務所に林業の人を紹介してもらい見てもらったところ、敷地内には倒れる危険性のある木が他にも何本かあるという。そのため、もしもに備えて、それらの木を伐採してもらうことになった。費用は何十万とかかったが、木が倒れて家が壊れたら元も子もない。

 それまでそれなり木が生い茂って、木漏れ日のドッグランも好きだったが、伐採すると日当たりが良くなり、ドッグランも拡張した。伐採した木の一部をウッドチップにして積んでおいてもらったので、それを均等にドッグランに撒き、ちょっとグレードアップした気がした。

 簡単に書いているが、台風で木が倒れて、伐採してドッグランを拡張するまで、1年ほどかかっている。だから山の家に行く度に作業服で少しずつやっていたが、なぜか嫌ではなく、結構楽しんでいた。

 犬のために手に入れた山の家だし、そこに暮らしてなければ経験しなかったことばかりだが、それはそれで良かったし、ドッグラン拡張も彼らのためと思えば苦ではなくなっていた。この感覚は、やってみれば分かると思いますよ。(つづく)

プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる) 
 
1971年大阪生まれ。ライターで「またね、富士丸。(小学館文庫)」、「また、犬と暮らして」、「犬の笑顔がみたいから(共に世界文化社)」など犬関連の書籍を多数出版。音楽の連載やコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック「Another Side Of Music(ワーナーミュージック・ジャパン)」を出版。

2015年には自らが欲しいと思ったペットグッズを作るブランド『DeLoreans』を立ち上げる。

BLOG「Another Days」 https://anazawamasaru.com/
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【連載】
 いぬのきもちWEBマガジン『犬のはなし』 https://dog.benesse.ne.jp/tags/?id=619
 sippo『悩んで学んだ犬のこと』 https://sippo.asahi.com/feature/?key=11030585