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2023.02.12

#高原別荘地の動物たち - ニホンジカ

別荘地とニホンジカ 〜その1. ニホンジカはいつ増え始めたのか〜

今日の蓼科高原別荘地では、当たり前のように見かけるニホンジカ。

しかし2004年に発行された同別荘地のオーナー会会報誌「蓼科つうしん」にはこのような記述がある。
 
ビーナスラインを100mくらい上がったところで、左側の斜面から駆け降りてきた
茶色い白い斑点のある小柄な鹿が、慌てて反転上昇しました。
車を止め、戻ってくるだろうと仔鹿をカメラに収めようとしましたが、
用意が間に合わず「撮り」逃しました。
「備えあらざれば憂いあり」、と反省しきり。(2004.7, p.16)

なるほど、撮り逃したことを反省するほどなのだから、2004年の時点ではシカの数はそう多くはなかったことがうかがえる。

環境省のデータによると、全国的にはニホンジカは1980年代以降から個体数を増やし始め、
平成元年から30年間で個体数はおよそ7倍に増えている。

しかし、明治の終わりから1970年代にかけては個体数が激減しており、捕獲が制限されていた時代があった。

出典:環境省 自然環境局. " 全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推測等について". 報道発表資料. 2021-3-2. https://www.env.go.jp/content/900517060.pdf, (参照 2023-2-12).
まとめると、ニホンジカの個体数は
 1. 明治期の乱獲による個体数激減 
 2. 保護政策や環境の変化による個体数の回復 
 3. 過増加

という過程を辿っている。

日本だけでなくヨーロッパや北米でも、最近の数十年間で狩猟や自然の捕食者の減少、農業や林業による生息地の改変や温暖な気候などの原因によって、生息数・生息地を拡大していることからも(McShea et al., 1997; Cote et al., 2004; Apollonio et al., 2010)、
シカは非常に「増えやすい生物」だということがわかる。

シカは1000種以上もの植物を餌にでき、広範囲を移動でき、繁殖率が高く、適応能力も高い。
たとえ餌資源が減ろうとも、彼らは力強く生き延びるのだ。

1990-2000年代に北海道東部地域で行われた成獣メスのテレメトリー調査による自然死亡率は5%以下であり、
狩猟や高次捕食者による捕食圧がなければ、非常に高い生存率を示すことが明らかになっている(Igota, 2004; Uno and Kaji, 2006)。

生態学者や専門家でも野生動物の正確な個体数を把握するのは至難の業であり、個体数調査が行われているエリアは限定的であるため、
蓼科のニホンジカがいつ増えたのか推測するのはむずかしい。

しかし、蓼科高原別荘地には住民の声を知ることができる貴重な資料がある。
1990年から毎年発行され続けているオーナー会会報誌の「蓼科つうしん」だ。

ここに寄稿されているオーナーたちの文章から、同別荘地での"シカと人の攻防戦"が見えてきて興味深い。

蓼科つうしんでは、ビーナスラインに現れた仔鹿を撮り逃したエピソード(2004年7月号)以外は、2006年以前に「ニホンジカ」に関する文章は出現しない。
しかし、2007年以降徐々に、シカによる食害を憂いた文章が出現してくる。
当ブログでその一部を紹介させていただく。
 
 ・・花や、山菜、最近増えている鹿など、オーナー同士の話は尽きることがありません。(2007.7, p.20)

特に、2015年は鹿の食害が特に酷く別荘地内で話題になったようである。
 
・・・大雪の冬が終わり、一段とひどい鹿の食害が話題になっています。(中略) 建物の高床の下は寒さをしのぐ為に入り込んだ鹿の糞だらけです。別荘地が鹿にとって格好の冬の隠れ家になっています。(2015.7, p.20) 


また、2007年7月に発行された「蓼科つうしん」の巻末にある「別荘地管理事務所からのお願い・お知らせ」では、
 
区画内に”へい“”柵”はできる限り設けない。やむを得ず設置する場合は、別荘地に自生する様な樹木で生垣とする。(2007.7, p.19)

と、別荘地の景観の保護のためへいや柵の設置が原則禁止されていたが、今日の同別荘地では野生動物の食害を防ぐためにネットや柵を設けている世帯がちらほらみられる。

出典:"蓼科つうしんvol.25”. 2007.7, p.19.
2019年7月に発行された「蓼科つうしん」で「これまでの取組み」が紹介されていたが、
 
鹿による植生環境の被害が増えていますが、罠による駆除への協力や建物床下ネットの設置呼びかけなどを通じて、これらの被害の最小化を図っていきます。(2019.7, p.8)

とあり、今では寧ろ積極的に床下への防獣ネットの設置を呼びかけているようだ。
シカの食害が深刻化するにつれ、ルールも変化したようである。



以上のように、蓼科高原別荘地ではニホンジカは2007年頃から徐々に生息数を増やし、特に鹿の食害が話題になったのは2015年。

全国的にシカが増え始めた時期よりやや遅い。
別荘開発のため深山に人手が入り低木や下草が増えたことや温暖化により、シカの生息域がこの標高1500〜1760mの別荘地にまで拡大していったのだろう。

2015年以降も生息数が減ったという声は全くみられず、毎年シカによる食害に悩まされているようで、
2023年現在も、別荘地はシカだらけである。