COLUMNS

2025.03.10

#標高1700メートルで犬と遊ぶ - 穴澤賢さん連載エッセイ「犬のために山に家を」 #森で火を楽しむ

穴澤賢の連載エッセイ「犬のために山に家を」(第7回)

 都会の夏は年々暑くなっているので、犬のために移住、もしくはセカンドハウスを真剣に考えている人も増えているのではないかと思う。
 
今回はそんな方のために、山での暮らしでかかる光熱費や、それ以外の費用の話を書いておくことにしよう。事前に断っておくが、これは築50年のボロ小屋を買った私の場合であり、もっと新しい物件や新築の場合はそんなにかからないと思うから参考程度にしてもらえれば。
 

 まず、夏の光熱費はたいしてかからない。エアコンをフル稼働させている都内や平地より安いはずだ。なぜなら、私が暮らす標高1450メートルあたりは、真夏でもエアコンが必要ないからだ。そもそもエアコンが付いていない。夜は、薄いものを羽織らないとTシャツだと寒いくらいになる。信じられないと思うが、事実である。

 わが家でもそうだから、もう少し標高の高い「蓼科高原別荘地」だともっと涼しいはずだ。当然、朝5時に起きて散歩する必要もないし、日陰なら昼でも犬と外で遊べる。きっと犬は大喜びするに違いない。
 

 問題は、冬である。八ヶ岳周辺は標高が高くても豪雪地帯ではなから、野沢温泉のように2メートル積もったりすることはない。積もったとしてもたいていは10センチ程度で、多くても50センチ以内くらいだ。

 ただ、気温は朝夜でマイナス15℃くらいになる。ということは、道路は凍結する。少し積もった雪が昼間に溶けると、夜はアイスバーンになるので、運転には気を付けてね。

 それくらいの気温でも、風の強い日が少ないせいか、散歩していても凍えるほどではない。ただし、当然室内は暖房が必要になる。2017年にボロ小屋を手に入れて初めて迎えた冬は、窓際に置いてあったペットボトルが朝起きるとカチンコチンに凍っていた。
 

 それくらい寒いと、石油ファンヒーターでは太刀打ち出来ない。石油ストーブにしても石油ファンヒーターにしても、定期的に換気しなければいけないので、山では使いものにならないと思っておいた方がいい。

 そのため、寒冷地仕様のFF式(強制給排気<Forced Draught Balanced Flue>の略)ストーブというものがあり、わが家はそれを導入した。このあたりで石油を使うストーブとなればほぼこのストーブのことを指す。
 

 排気口があるから換気しなくていいし、外に石油タンクがあり自動で吸い上げてくれるので、ちょくちょく石油を入れる必要がない。エアコンのように設定温度になると止まり、下がるとまた運転する。家の大きさにもよるが、わが家の場合はFF式ストーブ一式の設置代が30万円ほどかかった。

 2017年から5年ほどは、鎌倉市腰越と八ヶ岳の二拠点生活で、月に2回くらいしか来なかったので、石油代もたいしたことはなかった。
 

 ところが、2023年11月に完全移住した初めての冬、2月の灯油代は5万円もかかった。夏はエアコンを使わないから光熱費は安いが、結局冬で行って来いなのである。

 それにはボロ小屋ならではの原因がある。まず、壁に断熱材が一切入っていない(後で知った)。それに、あちこちから隙間風が侵入してくる。そして、たぶん最大の原因はアルミサッシではないかと思う。さらに1枚ガラス。
 

 だから窓からアルミサッシからどんどん熱が逃げていく。断熱材も入っていないから保温力がない。となると、FFストーブが設定温度になって止まっても、5分後にはまた動き出す。結果的に石油をどんどん使うことになる。

 そのため、まずはその問題をなんとかしないといけない。そこで、定住することになったのを期に、風呂場、洗面室、トイレをリフォームして、アルミサッシには内側に樹脂サッシを取り付けることにした。
 

 風呂場、洗面台、トイレの壁を壊してみると、案の定断熱材は一切入っていなかった。そこにたっぷりと断熱材を入れてもらったが、一番効果を実感したのは家中の窓のアルミサッシの内側に樹脂サッシを取り付けたことだった。
 

 それだけで、FFストーブが設定温度になって停止している時間が、5分から1時間に変わった。樹脂サッシの費用は、家の窓すべてで70万くらい。古い家を買った場合は、まず窓から手を付けた方がいいと思う。
 

 そうやってある程度気密性を高めたところで、念願だった薪ストーブを導入した。煙突、作業代込みで140万ほどかかった。

 FF式ストーブでいいのではないかとも思ったが、定住している先輩たちに「FFはシャワーみたいなもので、薪ストーブは湯船に浸かるようなもの、それくらい体の温まり方が違う」と聞いて、それなら導入してみようかとなったのである。
 

 実際に薪ストーブに火を入れてみて、その言葉の意味を実感した。たしかにFFとは全然違う。壁や柱や床の木材まで、すべてが温められるような感じで、体がぽかぽかする。火を付けてから家が温まるまで1、2時間かかるが、家全体の空気が温まると、Tシャツでもいられるほどなのには驚いた。外はマイナス10℃くらいなのに、である。

 それにちょくちょく薪をくべたり、メラメラと燃える炎を見ているのも、山の暮らしっぽくていい。
 

 薪ストーブを使い始めてから、FFはほとんど使わなくなったが、石油に代わって薪代がかかる。薪(楢)は業者に頼んで家の前まで運んでもらうのだが、軽トラック荷台いっぱいで、だいたい2万5千円ほど。それでは一ヶ月持たないので、2回ほど運んでもらう。結局、石油代と変わらないのだが、薪ストーブの良さを知ってしまうと、こっちを選ぶ。

 ただし、導入した1年目だから割った薪を買う必要があるが、来年以降は、丸太で買ってチェーンソーを薪割り機で割れば、恐らく半額程度で済む。なぜ1年目は割った薪を買う必要があるのかというと、丸太から割ってすぐの薪は乾燥していないので、すぐには使えないのだ。
 

 薪はよく乾燥させないといけないので(煙突が汚れたりするし色々問題がある)、最低でも春に割って半年は日当たりの良い薪棚で乾かしておくべしと言われている。

 さらに薪にも種類があって、カラマツなどは楢の半額程度だが、楢に比べると半分くらいの時間で燃え尽きるので、そういうことか、と分かった。

 薪だけでなく、割った薪を乾燥させておく薪棚も必要になる。わが家は3シーズン分として3つ設置したが、30万ほどかかった。自作すればもっと安く済んだと思うが、倒れたり強度に自信がなかったので、プロが鉄骨で組んだものを買った。

 他にもチェーンソーが6万、薪割り機が15万ほどかかったが、これらは薪ストーブを導入するときの初期費用で、毎年かかるわけではない。それらを揃えてしまえば、来年以降は毎月2万5千円くらいの薪代になるのではないかと思う。
 

 なんだかんだと費用がかかってしまったが、薪ストーブを導入して良かったと思っている。大吉と福助と一緒に薪ストーブのある室内で、夜お酒を飲んだりしていると、余計そう思う。

 最初に断ったように、これはわが家のケースで、最近は断熱性の優れたエコ住宅もあるので、新築の場合はそっちの方がいいのかもしれない。蓼科高原別荘地にはそのあたりに詳しい『アドバイザーの原さん』がいるので相談してみるといいと思う。
 

 光熱費以外にも、都会と違ってスーパーまで近くて片道10分、遠いと30分くらいかかるのでガソリン代も余計にかかったりするが、繁華街がないから飲み屋に使うお金が減ったりして、結局、日常にかかる費用はそんなに変わらないというのが私の実感だ。

 それらすべてを考慮したとしても、暑い夏のことを考えて、犬のために山に移住する分には苦にならないと思う。

(つづく)
 

プロフィール
穴澤 賢(あなざわ まさる) 
 
1971年大阪生まれ。ライターで「またね、富士丸。(小学館文庫)」、「また、犬と暮らして」、「犬の笑顔がみたいから(共に世界文化社)」など犬関連の書籍を多数出版。音楽の連載やコンピレーションアルバムとエッセイをまとめたCDブック「Another Side Of Music(ワーナーミュージック・ジャパン)」を出版。

2015年には自らが欲しいと思ったペットグッズを作るブランド『DeLoreans』を立ち上げる。

BLOG「Another Days」 https://anazawamasaru.com/
Twitter https://twitter.com/Anazawa_Masaru
インスタグラム https://www.instagram.com/anazawa_masaru/
【連載】
 いぬのきもちWEBマガジン『犬のはなし』
 sippo『悩んで学んだ犬のこと』